知覚が変化する訳

ボー・ロットの『脳は「ものの見方」で進化する』を読み返して、私が重要なことを見落としていたことに気づきました。「人の脳は歳をとっても可塑性を持ち続ける」ということです。30年くらい前には、脳細胞はある時点から衰退する一方だと一般的に考えられていたように思います。

ロットの知覚の変化に関する主張は、教育の世界で経験的に語られてきたこととあまり変わらないとも言えます。赤ちゃんが大人になる過程で様々な形式で教育されます。赤ちゃんの方から捉えれば、本人がさまざまな体験を通して学習します。

ロットは「学習」「発達」「進化」を環境の変化に対する「適応」という意味で同じで、個々の意味の違いは、適応に要する時間の長さの違いだと解釈しています。そして、その変化の過程をイノベーションと捉えています。

話を戻すと、30年前は「学習」「発達」によって脳や知覚が変化するのは成長期だけだと考えていたということです。「知覚」はその性質(生理)によって、何もしなければ、歳とともに変化しにくくなることは、今も違いありません。ロットが指摘しているのは、歳をとっても「知覚を変化させることができる方法がある」ということです。

知覚を変化させるポイントは、「知覚に試行錯誤させること」です。知覚は通常、慣例的な判断をします。それに「待った」をかけると、脳がびっくりして慣例的な判断を停止します。その時点(地点)から新たな回答を探す過程で、知覚が磨かれます。

本の英語の原題は『Deviate』です。単語としては「外れる」というような意味の動詞です。ロットの意図は、「知覚を変化」させるには、自分が信じて疑わないような「常識から外れる」ことが重要だということです。

「ゆっくりピカソ」は絵画観察法です。第一印象を得て、作品の前から立ち去るのではなく、じっくりと観察します。第一印象を一旦保留にして、作品の細部を観察し、発見した要素を結び付け、あれこれと解釈を試みる。その1つ1つのステップが、知覚を磨く体験となっているのです。


Picasso Andante

「ゆっくりピカソ」絵画観察法。自力で「知覚力」を磨く絵画観察法の紹介

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