web改修 前の「知覚の変化」

2024年4月からページ削減にともない、もとの原稿を転載します。

◆知覚(旧知覚)が知覚(新知覚)をつくる

知覚は、旧知覚(古い知覚)が新知覚’(新しい知覚)に大きな影響を及ぼします。例えば、何かを見たときに、自分が「見た」と思っている物事の90%が旧知覚(過去の記憶など)が作りだしたものです。「見た」と判断した情報源の内の90%が旧知覚、目(器官)からの情報が10%です。

◆老犬も芸を覚えられる

1つ1つの知覚が、過去の記憶となり、旧知覚を作ります。子どもの頃(成長期)は失敗を頻繁に繰り返すので、どんどん知覚が新しく書き換えられます。歳を取るとともに失敗が減り、知覚は定常化(湿度100%の環境では、コップの水は減らないけれど、水面から気化する分子と液体化する分子はあり、変化はしているけれど見た目は変わらない。飽和と呼ばれる状態に似た状態)します。俗に言う「頭が固い」状態になります。

ロットなどの神経科学者の研究の結果、今では、歳をとっても脳細胞は可塑性を持ち続ける(増加できる可能性を持つ)ことが分かりました。理論的には、子どもの成長期と似た状態を脳内につくり出すことができるのです。

昔から「老犬は芸を覚えず」と言いますが、実は「老犬も芸を覚えられる」ということです。

◆エコロジーが大事

人の知覚は自分自身の意識の持ち方によって変化します。同時に、エコロジーからの影響も強く受けます。「エコロジー」とは、ロットの定義では、「周りの物事とつねに関わり、お互いに影響を与えている場所」を意味します。そして、エコロジーが人の知覚を作ると同時に、人がエコロジーを作ります。

◆知覚を変化させる(知覚を磨く)

「ゆっくりピカソ」は、知覚を変化させるための練習です。「知覚の小さな変化」を体験できます。

実は、日常生活で知覚の変化を体験するのは意外に難しいことです。知覚の仕組みを理解すると分かります。ほとんどが過去の経験から「うまくいった」という情報を集めて作られた「旧知覚」によって、私たちは問題に直面することなく暮らしています。

絵画作品は、日常からある程度の距離にあり、一線があります。絵画や写真の中の出来事は、仮に事実であったとしても、「絵画を見ている私」とは直接関係がないのです。

「第一印象」は、私たちの日常感覚(旧知覚)による判断です。「この絵、好き」「素敵」「いまいち」「嫌い」云々と思って作品の前を過ぎていきます。ニューヨークのメトロポリタン美術館の調査では、来館者が1作品の鑑賞にかける時間長は、平均で「30秒」です。

「ゆっくりピカソ」が「10分」を提案しているのは、ここに理由があります。「第一印象」以上の鑑賞をすることが知覚を変える体験の第2歩です。第1歩は上述した「ヒトの知覚の仕組み」=「90:10」を自覚することです。10分間かけてじっくり観察し、分析をすることで、「知覚の小さな変化」を体験できます。変化しなかったとしても「第一印象以上の何か」を感得することはできます。


◆知覚の内容は人によって違う

知覚した中身は人によって変わります。

この絵を見て、何を感じますか?

何をしているところに見えますか?

じっくりと観察すると、ところどころに「おや!?」と思う箇所がでてくるかもしれません。適切な作品を選ぶことも大事ですが、同時に、どのように観察するかも大事です。

観察を終えた後、ネットなどを利用して作品について調べることも知覚を磨くのに役立ちます。調べてみると、自分が気づかなかったことに気づくかもしれません。「気づかなかったこと」を知ることで、「自分がどのように知覚していたか」を知ることができます。この「自分の知覚の仕方」を認識することが、知覚を磨くことにつながります。

この絵はルーブル美術館所蔵の作品です(© 1995 RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Daniel Arnaudet)。題名は伏しておきます。(>>>ルーブルのサイト

https://collections.louvre.fr/en/ark:/53355/cl010054730#

Picasso Andante

「ゆっくりピカソ」絵画観察法。自力で「知覚力」を磨く絵画観察法の紹介

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