ソシュールの「シニフィアンとシニフィエ」
VTSの基礎研究にあたるアビゲイル・ハウゼン(1945-2020)の「Aesthetic Development」は、20世紀の心理学者と知られるジャン・ピアジェ(1896-1980)の発達段階論「Developmental Stage」の考えを基礎としています。ジャン・ピアジェと同じスイスで19世紀に活躍したのが記号論で有名なフェルディナンド・デ・ソシュール(1859-1913)です。ソシュールは言葉などの記号を「シニフィアン」と「シニフィエ」に分割して考えました。ピアジェは、幼児期においてはこの意味の分解ははっきりしておらず、成長の段階が進むとはっきりしてくるとしています。
具体的には、例えば、木のような図像(木そのものや木の写真)があった場合に、元の図像が「シニフィエ」で、「木」「tree」というように記号化してとらえるときにその具体的な記号を「シニフィアン」と呼びます。
ピアジェの「シェマ」と「シェム」の関係は、どこか、ソシュールの「シニフィアン」と「シニフィエ」の関係に似ているように感じます。「シニフィアン」と「シニフィエ」を理解できると、なぜ「ゆっくりピカソ」で知覚が磨かれるかが分かりやすくなります。
図像に対してどのような言葉(記号)を当てはめるかは、文脈によっても変わりますし、人によっても違います。
さらに、言葉と言葉は文法に従って様々な言葉と結びつきます。
絵画観察において、何を見たかという客観的な情報と、その情報にどのような意味づけをしたか、さらには、その個々の情報をどのように関係づけたかという主観的な判断(解釈)を分けることが大切だということの理由がここにあります。
どんな人でもバイアスがあります。どのような情報をどのような解釈に結び付ける傾向が強いか、日常的に普通に判断していること、その普通の判断の中にバイアスがあります。そのバイアスに気づくヒントが、客観的情報(事実)と主観的情報(主張、解釈)を分けて、自分の思考の中身を観察することにあります。
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