生物学視点とスローアート

中垣啓訳の『ピアジェに学ぶ認知発達の科学』を読んで、ジャン・ピアジェとボー・ロットの考え方の共通点が少し分かりました。そして、ちょっと日を置いて、もしもそうなら、「スロー・アート・ディ」のような入り方、美術鑑賞の始め方は、はじめての人にはもっともお勧めのような気がしました。>>>スロー・アート・ディ

共通点というのは、ピアジェ、ロットの両者は生物学を学ぶことから研究者としてのキャリアをスタートさせている点です。生物学的な考え方を基盤に、ピアジェは認知科学や発達心理学、その派生的な分野で教育学の研究をしています。VTSのアビゲイル・ハウゼンの研究はピアジェの基礎研究の上にあります。またロットは、現代における神経科学の第一人者です。エイミー・ハーマンや神田房枝の知覚力を磨くセミナーの基礎には、ロットを始めとした神経科学の研究成果があります。

生物学的というのは、人は生物の一種として、成長・発達するという考え方で、それは、他の生物が生息環境に適応する方法と類似性があるという前提に立って考えるということです。ピアジェは子どもから大人への変化、身体的発達、心理的発達、知能的発達が同型の発達様式を持ち、それは継起的に段階を踏んで発達すると考えます。ロットはさらに、大人になった後のことも視野に入れ、イノベーションなども同様に捉え、「学習」「発達」「進化」は生物が環境に「適応」する仕方と同型だとしています。

「スロー・アート・ディ」方式が、初心者に最適と思うに至ったのは、ピアジェの研究にヒントがあります。特に赤ちゃんにおいては、知的な活動に先行して、身体的な経験を通して、知的な活動の内容に相当するものを理解することで、言語習得の基盤が出来上がるとしています。絵画鑑賞(観察)において、前段の知識がなくても、10分間(以上)の時間をかけて鑑賞すると、「感動がある」という創始者フィル・テリーの体験からスロー・アート・ディはは始まりました。何かを感じて、それを基盤に「学習能力をのばそう」というのがVTSで、「知覚力を磨こう」というのが、ハーマンや神田のセミナーです。

「学力能力をのばす」「知覚力を磨く」という目的ɪ以前の「体験」「体感」に焦点を当てている意味で、「スロー・アート・ディ」方式は誰にでも始められる方法のように思いました。

ちなみに、中垣によれば、ピアジェ理論は長年にわたり批判の的になってきました。私の理解では、それらのほとんどは、いわば「重箱の隅をつつく」ようなものでした。中垣の本は2007年出版ですが、その時点で、ピアジェが創設した認知科学のパラダイム(価値体系)はいまだに有効な枠組みだとしています。

Picasso Andante

「ゆっくりピカソ」絵画観察法。自力で「知覚力」を磨く絵画観察法の紹介

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